質問・回答
カット技術の高さは同業者の憧れであると同時に、顧客からも10年以上の指名を受ける人気ベテラン美容師の花城敏晃さん。気さくでムードメーカーでもある花城さんを、仲間は親しみを込めてシーサーさんと呼ぶ。そんな彼をCannaの店長に抜擢することが、オーナー小崎さんがCannaをオープンする際に最もこだわったところだという。
花城さんが美容師として大切にされていることや、美容師として長く活躍する秘訣を聞く。
質問回答1
アナログな世界
-花城さんがアシスタントだった頃は、朝も夜も休みも、毎日すべてが練習と仕事の繰り返し。美容師=職人という業界の基準に加えて、先輩や店の言うこと全てが正義という時代。当時を振り返り、あの頃はやりすぎだったと思うと話してくれた。一方で今の美容師の形にも疑問を抱いている。
花城:今はSNSなどネットの情報に山ほどアクセスできる時代で、若い美容師は吸収したいものに短時間で大量にアクセスできますよね。
評価し合うのが当たり前の情報社会では、何が世間で受け入れられているのか、何が求められているのかを、簡単に知ることもできる。
僕らが美容師になりたての頃は、流行を把握するのにも一苦労していた時代です。今では考えられないだろうけど、先輩たちが写真パネルなんかを見せて、どれが正解のスタイルか、いけている旬のスタイルかを後輩にレクチャーしていた。アナログすぎて今思い出しても笑えますが(笑)
それに比べて今は、スタイルだけではなく、技術までもが公開されている。だから昔に比べて、練習に割く時間は短くても、本人次第でいくらでも美容師として技術の向上ができる。そしてネット社会で育った若い人たちは、アナログで育った時代の人間よりも、明らかに「見て吸収する」能力が高いんです。
そして、それは本当に喜ばしいことなんだけど、一方でそれだけでは成立しないのが美容師の世界。僕らの美容師の技術は人に対して向けられるものだから、結局はアナログの世界。見て学ぶ力が早いお陰で、テストにも早く合格して、最速でデビューできます…といっても、実際にお客様の髪を切るとなると、手が震えて切れない。それが現場での厳しい現実だったりするんです。
中にはデビューが早くて、おまけに自分一人でSNSで集客もできるようなハートの強い人もいるのも事実。そういう人はある意味で現代の職人だけど、急いで技術を詰め込むだけでは、美容師としての軸足が安定しないと感じています。
質問回答2
スタイリストデビュー
-花城さんが話す様に、SNSを駆使して自分で集客できる美容師が顧客を増やす時代。それを歓迎し後押しする店ももちろん多い。そのために店側が早いデビューをアシスタントに促す流れもある中、Cannaではデビューを急がせない方針だと聞いた。
花城:SNSの普及で、美容師が技術以外の評価を世間から得られる時代。自分でSNSで集客できるのは働き方の多様化としては必要な話だけど、僕たち美容師が個人プレーに偏り過ぎる原因にもなってると思う。
集客は店全体の課題であるべきだし、働くスタッフ一人ひとりが、知恵を出したり工夫して店全体の集客につなげてゆくことが、一つ屋根の下で一緒に働く意味だと思う。
さっきも言いましたが、僕ら美容師の技術は対人なんです。どうしたってアナログな世界なんです。大事だからもう一度言いました(笑)つまり対人ということは、コミュニケーションをとらないと技術がふるえない世界。せっかく美容師になっても辞めてしまう人の多くが、技術的な問題ではなくて、コミュニケーションがとれないから。
現場の先輩や仲間の見せてくれる成功例や失敗例から、何かを自分で学び、自分の正解に作り替えていく。現場でじっくりと先輩や仲間から学びとることも、コミュニケーションの力を養います。 美容師としての技術的な引き出しは勿論、人としての引き出しもしっかりと増やしていくことが、長く美容師を続けていく秘訣にもなる。
一人でやってゆける職人よりも、長く美容師であることを楽しむことができる人を育てたい。だからCannaでは3年ぐらいかかってでも、じっくり時間をかけて、若い人を育てたいと思っているんです。
質問回答3
心がないと売れない
-花城さんはCannaの店長であると同時に、人気スタイリストだ。顧客との10年以上の繋がりもめずらしくない。売れる秘訣はあるのだろうか。
花城:僕ら美容師はあまり知らないことだけど、お客様は1週間もかけて予約するお店をさがしてくれていたりする。そもそも髪を切るのは、新規のお客様も既存のお客様にとっても、2〜3ヶ月に一度のイベントなんです。
美容師にとっては今日10人目のシャンプーでも、お客様にとっては2〜3ヶ月ぶりに他人に髪を洗ってもらう。そこに気がつけるか、そしてCannaを選んで来てくれたお客様の大事なイベントを、仲間と一緒に成功させようと思えるかどうか。そんな美容師以前の人としての「心」がないと、僕らは美容師として売れないんです。
それからお客様との付き合いが長くなってきて、友達のように仲良くなったとしても、プロの美容師とお客様の立場を忘れないことが大切。自分のプロとしての意識が薄れてしまうと、提供するものの質が落ちることは、いつも頭に入れておかないといけない。
お客様は仲良くなること以前に、僕らのプロとしての目、レベルの高い視点を求めている。そのことをいつも意識していることが、結局はどちらにとってもプラスになっていくんです。
質問回答4
美容師って幸せ
-最近は社会一般の基準ばかりを取り入れたがる、美容師というサラリーマンに徹している人が少なくないそうだ。だけど職業として美容師をやるような、サラリーマン美容師になるなんてもったいないと花城さんは話す。
花城:サラリーマンがどうとか、他の職業がどうという話ではなく、僕ら美容師についての話なんです。美容師=職人という時代はいきすぎたことも多かったけど、だからといって、僕ら美容師がサラリーマンのようになるのは全くもって違うと思ってるんです。
ここ表参道という場所は、サラリーマン美容師じゃなく、意識の高い美容師がたくさん集まっています。Cannaにいる仲間もみんな、向上心のある美容師しかいません。職人ではなくても、美容師はクリエイターだという自覚がある。これから僕ら美容師は、クリエイターならではの基準を自分たちで創りあげていく時代だと思っています。
よく大きな企業で働く人は、自分のしている仕事がいったいどんな意味があるのか、どこに直結しているのか分からないまま仕事をしていると聞きます。 けれど美容師はシンプルに「髪を切って、目の前で喜んで笑ってるお客様を見届ける」それまでが仕事なんです。
例えば何か物を作って売る人は、きっとそれを手にした人に喜んでもらいたいと思っている。だけど、ネット販売なんかが主流になってきている今の世の中では、何かを作って売っても、手にして喜ぶところまでは見届けることができない。その点でも僕ら美容師は、やっぱり「作って、売って、喜んでもらう」ところまでの全過程を見届けられるんです。
「最初から最後まで見届けられる=最初から最後まで責任がある」…っていう厳しい世界ではあるけど、やっぱり最後まで見届けられる美容師って幸せだなと思います。
質問回答5
小さい人に
-朝仕事前に息子さんを送り届けた保育園で、明らかに家で切ってもらった髪を振りみだして、元気に遊びまわる子供たち。そんな子供たちを目にしながら、花城さんは思いついたことがあるという。
花城:子供を保育園に連れていくと、明らかにお母さんが切ったんだなぁ〜っていう髪をしていて(笑)あれはあれで、すごく可愛いから良いのだけど、例えば僕らが社会貢献として、保育園で1日美容室みたいなのができたら…いいなって思ったんです。
僕らプロからちょこっと髪を揃えてもらう。そんないつもと違った体験自体を提供するようなイベントがあったら、僕ら美容師も何か面白い発見がありそうだし、子供たちも何かを受け取ってくれるかも知れない。
たぶん現役の美容師みんな、それぞれに何かのきっかけを得て、美容師の道を選択してきている。だから次は自分たちも、何かのきっかけを小さい人たちにあげられたら、そこにはきっと、また新しい、楽しい選択が生まれますよね。そしたら、その中には実際に美容師になる子も出てくるし、美容師にならなくても、やっぱり何かのきっかけにはなる。そんな循環が作れるのも、クリエイティブな僕ら美容師ならではだと思うんです。