質問・回答
2021年2月に東京表参道に「Canna」をオープンさせたProducer小崎光隆さん。
「プライベートで何かあっても、好きでなった美容師は、現場に出れば元気になるし癒される」と語る小崎さんは、一緒に働くスタッフにとっても、Cannaが癒しの場になることを常に目標にしている。
経営で大切にされていることやこれから取り組んでいきたいこと、Cannaについて、美容業界について、今考える事を聞かせてもらう。
質問回答1
Cannaのチームプレー
-近年美容業界は、正社員という枠から業務委託という雇用形態に変わりつつある。それはお店や会社に縛られない、自由なフリーランス的な働き方が美容業界にも求められていることの現れなのかもしれない。けれどCannaでは業務委託という形をとりつつも、スタッフ同士のチームプレーを大切にしていると伺いました。今の業界の流れの中、あえてチームプレーを大切にする経営スタイルを取るのは何故でしょうか?
小崎:業務委託の接客では、個人プレーが目立つことがよくあります。それは、自分のお客様と他のスタッフのお客様の線引きが明確になる、業務委託という雇用形態の性質でもあると思います。
Cannaでは、誰のお客様でもCannaにお越しいただいたお客様として、担当か担当じゃないかに関わらず、スタッフ一同でおもてなしすることが当然だと考えています。そのほうがスタッフ間の不必要な摩擦も起こらないし、なによりも、一緒に働いている喜びが生まれると感じています。
今まで働いてきて分かることですが、仕事場でスタッフ同士がギスギスしているのは、一緒に創り上げてる実感と喜びがないからです。だったら、一緒に働いてること自体を喜びに変えればいい。案外単純なことだし、Cannaではそれが実現しています
質問回答2
表参道という場所
-東京では表参道といえば代官山と青山に並んで美容業界の最前線だ。この場所にCannaをオープンさせたことへのこだわりはあるのだろうか。
小崎:自分は福岡、東京、大阪の有名店でキャリアを積んできました。
その中でも表参道は、他のどの場所よりもお客様の求めているものが明確だということに気がつきます。
ただ髪が伸びたから切るといったスタンスではなく、ゴール設定が的確なんです。それはお洒落に敏感な方たちだからこそなのだと思いますが、そのような意識が高いお客様の期待に応えるには、確かな技術はもちろん、常に美容師としてのアップデートが必要になります。
つまり、昨日と同じ作業を継続していくだけでは、ここ表参道では美容室は成立していかないということなんです。ただそのお陰で、美容師としてキャリアや技術を磨いていく刺激には事欠かない。
職業として美容師を続けていくことと、美容師として自らのキャリアを磨いていくこと…そこには明確な違いがある。それを自分に問えるのがここ表参道に店を構えるこだわりであり、表参道で働く魅力だと思っています。
質問回答3
スタッフファースト
-小崎さんは以前の会社では3店舗を取り仕切る責任者であったが、会社の求めるものと、自分の求めるものにはズレがあった。そのズレは経営方針という方向性の問題だけではなく、もっと純粋な基本的な部分だったという。
小崎:勤務時間や給料的なことが問題になるのは、その数字の割合ではなく、その根底にある「美容師=キツイ」という昔ながらなの図式なんです。
その図式ありきで全てを決めてゆくから納得いかない、優しくない数字が弾き出される。 それならそこを単純に「美容師=楽しい」という図式に描き変えたら、勤務時間や給料的なことは柔軟に改善していけるんです。
スタッフファーストは、求人のために数字や条件の見栄えを良くすることではなくて、自分も含め、美容師仲間が美容師という仕事を好きであり続ける「在り方」そのものだと思っています。
自分が経営者である以上、その立場で出来る限りの「美容師=楽しい」という図式を数字で表現していく。「数字は任せろ!」というのが、経営者の責任だし(笑)、それを実現したくて自ら経営者という立場を選んできている。
だけど、スタッフファーストが美容師の在り方そのものである以上、これはスタッフみんなで取り組んでいかなくては、完成していかないものなんです。だから、経営者としての責任は自分の仕事だとしても、ここにいる美容師みんなの意識と実行力があって、初めて本当の意味でのスタッフファーストが実現していく。
ありがたいことに、同じ志を持った意識の高いスタッフに恵まれています。言葉だけのスタッフファーストではなく、美容師による、美容師のためのスタッフファーストが少しずつ前進できていっていると感じています。
質問回答4
美容師を好きでい続ける
-美容師として長くキャリアを重ねていくには、どうしたらいいのか。自分のためにも、仲間のためにも試行錯誤した結果たどり着いた答えはシンプルだった。
小崎:美容師は何があっても、直にお客様と関わるのが仕事。部屋にこもって一人デスクで作業するわけにはいかない(笑)
「美容師=楽しい」としても、仕事としては楽ではないのが事実です。だから、心が折れたらこの仕事は続けられない。
それに、仕事がプライベートを充実させるためのもの…だけだったら、美容師以外の仕事でも構わない。だけど美容師は、自分が美容師になりたくてこの道を選んでいる。プライベートが充実していることは大切だけど、美容師は仕事で楽しくなくちゃ満たされない。結局のところ、仕事で満たされてることが、美容師という道を選んだ僕らの楽しさと直結していると思う。
じゃあ心が折れないように、仕事で満たされるにはどうしたらいいのか…。それは、チームプレーの話と繋がるのだけど、仕事場で仲間と一緒に創り上げてる実感と喜びを持つことなんです。
毎日顔を合わせる美容師も、自分と同じように美容師になりたくてなってる人間。原点が同じ者どうしが集まった現場で志をひとつにするのは、そう難しいことではないんです。ただ、一人ひとりが自分も店を創っていっていると自覚して、店にも業務にも、それから仲間にも関わっていく。そうしたら、仲間と一緒に働いていることも喜びになっていく。
そしてCannaをオープンして本当に良かったと思うのは、それぞれが店を創り上げていくことに積極的な、美容師であることを好きであり続けようとする人間ばかりが集まってきている。
そういう意味では、Cannaには「人」という環境が整っているなと胸を張って言えます。安心して仕事に行ける。安心して関わり合える。安心して学びあえる。そういうシンプルで優しい「人」の環境がここにはある。
仕事の憂さをプライベートで晴らすのは普通だけど、Cannaがみんなにとって「あ〜仕事行って癒されよう」と思える場所になったら最高だなと思うのですが、自分の中ではそれが現実になってきているなと感じてます。
質問回答5
仕事終わりにみんなが笑っている
-美容室の業務内容はどこのお店もさほど変わらない。週末になれば忙しさはピークになり、閉店間際には疲れが隠せないのはどこの店でもお馴染みの風景だ。それなのに、Cannaをオープンしてからあることに気がついたという。
小崎:Cannaの恵まれた環境の話の続きになるのですが、とにかくスタッフが楽しく働いてくれていることが、見ていて分かるんです。
営業が終わってどんなに疲れていても、みんなの顔にまだ笑顔がある。それを目にするのは、最高の瞬間です。
それから丁寧に掃除してくれている姿からも、心の底からお店を大切にしてくれているのが伝わってきて、スタッフたちの店への愛情を感じます。店長の花城をはじめ、自分が美容師として人として尊敬でき、魅力を感じれる仲間とCannaで働けることに、毎日感謝しかありません。
質問回答6
経営者として美容師として
-店を経営する立場になって、純粋にスタッフには豊かになって欲しいと思うようになったと語る。けれど同時に、湧き上がる一つの思いがあるという。
小崎:経営者として思うのは、スタッフが豊になること。美容師として思うのは、もっと美容業界が平和になればいいということ
経営をしていく上で、数字は大切です。当然、美容師個人としても、数字は重要だと思います。数字の高さがモチベーションになることも、さらなる向上心につながったりすることも充分にわかっています。
だけど、数字の競い合いや、数字でもって成果を推し量ることがあまりにも当たり前になりすぎていて、業界全体が息苦しいようにも感じるんです。美容室は増えてるのに、美容師は減っていく…。
もっと平和でもいいのになって思うんです。髪を切る喜び、新しいカラーをする楽しみ。いつも泣いていたアシスタントが立派に成長して、バリバリのスタイリストになっていく姿を見るのも、たまらなく幸せだし…。お客さまも美容師仲間とも、人生まるごと関わっていけることが美容師としての醍醐味だし、幸せだなと感じるんです。
そんな数字で推し量れないものを語り合えるような、喜びあえるような、業界全体がリラックスした流れになったら、更に美容師という仕事が好きになれるし、美容師になりたいと思う若い子たちが増えてくると思うんです。
質問回答7
この先のCanna
-Cannaは2021年にオープンしたばかりのNewブランドだが、今後の展開予定はあるのだろうか。
小崎:この先、店舗としては3店舗まで増やそうと考えています。それから、お店と直結している学校ができたら最高だなと。
「スタッフみんなで協力して、お客様の要望を現実に変えていく…」
これを現場で直に吸収してもらえたら、個人的な技術の向上だけでなく、美容師として仲間と一緒に、楽しんでキャリアを積んでいくという道が開けると思うんです。
それから、毎日実際にお客様に接しながら、売り上げや集客にも頭を使う、リアルな美容師の全体像を早い段階で肌で学んでいくこと。そしたら「あれ思ってたのと違う…」という学校と現場のギャップが狭まって、アシスタント時代に学ぶことももっと意識的になる。
それから、前日に疲れて帰っていった先輩たちが、翌朝には笑顔で働いてる姿を見たら、なんだか自分も大丈夫かもって思えると思うんです。「仕事で疲れても、仕事で癒される…」それが実際に可能なんだって、若い子たちに伝えられたら、美容師としての土台が揺るぎないものになっていくと思うんです。「仕事行って癒されよう!」は好きでなった美容師だから、やっぱり可能なんです。